「めんどくさい」の心理学

今回はいつもとは違う切り口のコラムです。

私は臨床心理の専門家ではありますが、必ずしも「病んだ」方のみを相手に面接をしているわけではありません。

当オフィスにはかなり多くの方がいらっしゃっており、その面接で話す内容もお一人お一人違います。

そんな中、とあることから素朴に思ったことが「めんどくさい」って何だろう?ということでした。

(守秘義務がありますので、どんな話からそう思ったかは割愛させていただきます)

そしてプライベートで携帯電話の機種変更が必要になり(充電が半日持たなくなったのです、後述)、様々な通信会社を調べたところで、「めんどくさい」って何だろう?という疑問が出てきました。 

 

詳しくは書きませんが、某twitterではひたすらに「帰りたい」気持ちを綴っているものもあるようです。

「めんどくさい」という心理は、日本の企業の生産性を考える上でも示唆があるかも?とも思い、興味が出てきた次第です。

備忘録もかねて、ちょっとコラムを書かせてもらいます。

 

 

 

携帯電話の機種変更に見る、「めんどくさい」の心理学

全くの私事のことではありますが、私は今までiPhoneユーザーでした。

スマートフォンが世の中に出始めたころ、家電好きの私はまずAndroid 2.0を購入してみました。

Androidの方が安かったからです。

当時は最新だったのですが…(このコラムを書いている2017年1月現在では、Android 6.1が最新ですかね?)

全く使えませんでした。(当時のSEの方、すみません)

電池は一日もたない、すぐにフリーズ、強制ダウン、挙句の果てに回線も認識しなくなる(携帯の意味がないですね)。

そこで、iPhoneに鞍替えしたのが始まりでした。

月額料金が多少高くはなりましたが、快適に使え、iPhoneユーザーであることに満足をしていました。

月額10000円以上かかっていましたが、「そんなものだろう」と思い、必要経費だと思っていました。

しかし、格安SIMと呼ばれる携帯電話会社が多く出てきて状況が変わってきたのです。

月々2000円位で使えるとかなんとか…

機種変更をして10000円の解約金が出たとしても、わずか2か月で元が取れます。

にもかかわず、正直格安SIMと呼ばれる携帯電話会社コーナーは、少なくとも近所の某有名大型家電販売会社であっても、いつもガラガラです。

隣の大手3大会社のdocomo、au、softbankは多くの人で賑わっています。

 

なお私は、iPhoneの不調もあって、それを機に格安SIMに変えたところ、最初の月の請求は1500円少々の請求金額でした…

 

この行動の奥にはどういう人間行動の心理があるのか、疑問に思ったわけです。

 

「不安」という視点から考える(精神分析入門)

人は誰しもが、わからないもの、わからないものは不安になります。

もちろん、知らないものがわかることへの好奇心などもあります。

小さいころの迷子(3歳4歳くらい)を想像するとわかりやすいかもしれません。

知らない道に入り、どう家に帰ればいいかわからないとき、とても心細くなった記憶があるのではないでしょうか?

そして結果的には家に帰り、新しい道を知るということになります。

これを携帯電話会社に置き換えてみるとわかりやすいかもしれません。

よくわからない、格安SIM会社、すでに知っている大手という安心感、どちらが人間契約をしやすいかと考えると、間違いなく大手でしょう。

実際、大手の携帯電話会社は繁盛しています。

しかし、世の中スマートフォン大好きユーザーもいらっしゃいます。

その方たちは好奇心からか調べ、格安SIMと契約をするわけです。

不安、もっと言うと格安SIMって何?というわからなさから足が遠ざかるということはありそうです。

逆にいうと、調べることが「めんどくさい」⇔安心して使える大手でいいという心理は働いているのかもしれません。

 

「夏休み」という視点から考える(双曲割引のバイアス、行動科学から)

私がまさにそうなのですが・・・

小さい時つながりで、夏休みの宿題ってどうしていましたか?

私は、8月31日にまとめてやり、9月1日に友達のを写させてもらうタイプでした。

よく言えば、エンジンがかかってから本領発揮できるタイプ、悪く言えば計画性がないともいえます。

 

双曲割引のバイアスというものがあります。

目先のことを過大評価し、先のことは過小評価してしまう心理のことです。

先の例で言うのであれば、7月20日辺りの夏休み突入直後は(=学校に行かない、自由、好きなことできる)という目先のことを過大評価し、宿題を後回し(=後でできる、友達に写させてもらう)にしてしまうことといえます。

ここにもめんどくさいの心理はありそうです。

通常、問題なく使えているようであれば、目先のことを過大評価し(大手のiPhoneで充分)、月額料金が安くなるという先のことを過小評価してしまうことはありえそうです。

先の過小評価していること(月々の基本料金や格安SIMって何?)を、わざわざ労力をかけて調べることはめんどくさいわけです。

というか、私も正直そうでした。

今回私が格安SIMに乗り換えられたのは、携帯が近い将来使えなくなるという損失が、格安SIMについて調べる労力の損失を上回ったからではないかと思います。

つまり、目先のことが変わったから、もとい、8月31日になったから、と言えるのかもしれません。

 

「取引コスト」という視点から考える(経済学の視点から)

この問題を調べていくうちに、経済学の「取引コスト」というワードを知ることができました。

 

以下wikipediaからの引用です。(2017年1月24日)

取引コスト(とりひきこすと、英: transaction cost)とは経済取引を行うときに発生するコストである。例えば、株の売買をする時に大抵の人はブローカーに仲介手数料を払わなければならない。

この仲介手数料が株取引の取引コストである。

また店でバナナを買うとしよう。バナナを買うのに必要なコストは、バナナの価格だけではない。

沢山あるバナナの種類の中から自分の好きなバナナを見つけ、何処で、いくらでバナナを買うべきかかを調べる労力、そして自宅から店までの往復の交通費、支払いまでの列の待ち時間や、支払い自体にかかる労力など様々なコストが必要なのだ。

バナナ自体の購入にかかった価格以外のコストが取引コストである。

将来関わる可能性のある取引を合理的に評価する際には、影響力の大きそうな取引コストを考慮することは重要である。

以上

 

私は経済学は専門外ではありますが…

人間の生活は、見方を変えれば基本的には取引で成り立っています。

今日の晩御飯の買い物ももちろん然りです。

格安SIMを購入する、という行為において、購入することそれ自体はお店に行けば終わります。

ですが、その前にいろいろと調べなければならないことがあるわけです。

本体は?

通信会社は?

ほしいスペックは?

などなど・・・

これらを調べる労力もすべて取引コスト、と考えることができます。

すると、人は想像以上にコストに敏感です。

同じ品物であれば、1円でも安く手に入れたいというのが人情です。

今回の格安SIMの「めんどくさい」で考えるのであれば、得られる利益<調べるコストという構図が成り立っていたからなのかもしれません。

 

 

「疾病利得」という視点から考える

 カウンセリングをお引き受けしていると、しばしばこの概念の方にお会いいたします。

疾病利得(しっぺいりとく)と読みます。

病気をしていることは、本来その方にはマイナスになるはずです。

しかし、そのマイナスの状態が本人にプラスになる(利得になる)ことを生み出す場合です。

少し極端な架空の話で見ていきましょう。

 

共働きで、なかなか両親にかまってもらえなかった子どもがいたとしましょう。

そしてその子どもはなかなか自分から甘えることができず欲求不満でありながら、親から見ると大人しい「いい子」でした。

ある時、風邪をひいてしまい、母親が会社を休んでずっといてくれたとします。

子どもは風邪というつらい状況でありながら、母親に甘えるということができました。

すると、不思議なことに風邪をひいてつらい状況の方が、その子どもにとって「いい状況」を引き起こしてしまいます。

両親が「病院に行こう」と言っても、子どもは「嫌だ、めんどくさい」の一点張りです。

 

この「めんどくさい」は、実はしばしばカウンセリングの臨床現場において見られるものです。

例えばうつの「意欲がおきない、何をやるにもめんどくさい」という訴えはよく聞かれるものですが、ここの鑑別は非常に重要になります。

本当にうつ状態によって苦しんでいるのか、うつという大義名分をもって何か利得が生じていないのか?

家族は大変なんだけれども、本人は問題を起こすことによって何か利得が生じていないのか?

といったところです。

多少、携帯電話の「めんどくさい」からは外れていますが、こういっためんどくさいというのも現場にあるため一応載せてみました。

 

 

 

まとめ

一言に「めんどくさい」心理と言っても、いろいろな切り口がありそうです。

私自身、携帯電話の機種変更はめんどくさいと思っているほうです。

オプションをつけてどうとか、変なプランをつけさせられて明日解約すればいいからなど・・・

「じゃあ、そんなオプションつけないでください」って思ってしまいますが・・・

なんだか、通信会社の思惑を一般ユーザーが受けているようで不快ですよね・・・

一方で、何もしないとユーザーが損をしてしまいます。

コストと取捨選択の按分を図ることがユーザーが自衛するために必要なことなのかもしれません。

自分の身を守る、というコストは非常に重要なものですね。

 

また、めんどくさいとモチベーションは似ているものでもありますので、区別が難しいですね。

今回は、あくまで機種変更の「めんどくさい」という視点からコラムを書かせていただきました。

「やりたくない」などはまた違う心理かと思いますので、またの機会に書かせていただきます。

 

なお、疾病利得に関しては当オフィスでもしっかりとカウンセリングを行わせていただきます。

本人に得がある分、多少時間がかかる傾向がありますが、お薬だけでは治らないもののひとつです。

お心あたりがある方は、ぜひ納得の上で当オフィスのカウンセリングにお申込ください。

 

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