最近「発達障害」という言葉自体は少し認知されてきたのかな?と感じています。
今回の「大人の発達障害」というのも、NHKさんが特集を組まれて以降、少しその認知が進んだと感じています。
「大人の発達障害」というのは、通常~18歳までに発達上の何らかの障害が発見されるのですが、本人の頑張りや、発達上の生きづらさを許容できる環境にいたなどの要因により誰にも気づかれずに大人になってしまい、例えば初めて働いてから、昇進、結婚など、大きな変化の時に初めて発覚する発達障害と言うことができます。
潜在的にずっとあったが、発覚したのが大人ということです。
(最近、大人の発達障害に「なった」とおっしゃる方がいましたが、それは誤りです)
一方で、かつての「うつ」のように、正しい理解と共に広がっているとは感じられません。
今日は発達障害に関して考えてみたいと思います。
そもそも発達障害とは(歴史的概略)
発達障害に関連して色々な単語があります。
ADHDは随分知られるようになりました。
学習障害もご存じの方も多いでしょう。
自閉症はご存知でしょうか?
知的障害と自閉症は違う?
広範性発達障害?
そういえばアスペルガーとかもなかった…?
高機能系…?
最近ですと、HSC…? などです。
単語だけで言いますと、全て発達障害という項目の一分類です。
広く一般的な意味で正しい理解をある意味妨げている一つの要因が、この単語が多いことによるものと私は感じています。
まずは、発達障害の歴史的概論から見ていきましょう。
「発達障害」という単語自体は、1963年のケネディ大統領時代の法令に盛り込まれたところから始まります。
もっとも、1963年に突然「発達障害」が発生したわけではなく、古来からあったものに対して初めて名前を付けられた、と表現するのが正確かもしれません。
アメリカの精神医学ではDSMという診断基準マニュアルが使われていますが、現在2013年より第5訂版になっています。
発達障害の単語が色々な混乱を招いているのは、DSMの3→4→5と回を重ねるごとに診断基準やカテゴリー、位置づけ、さらには名前そのものが新しいものが出たり、変わってきたりしているというのがその大きな理由として考えられます。
例えば、DSM4訂版にあった「アスペルガー症候群」というのは、2013年から使われている今のDSM5訂版になると「自閉症スペクトラム障害」という位置づけに変わっています。
このため、インターネットの情報や書籍など、DSM4訂版に準拠した文書と、DSM5訂版に準拠した文書があり、2018年の現在ではそのどちらもが目につくため、非常にわかりにくいことになっているわけです。
さらに、アメリカ規格のDSMとは別に、国際的に使われているICDというのもあります。
DSMとICDは基本的には似たようなものなのですが、名前が違う項目あり、これもさらに混乱に拍車をかけているという現状があります。
とはいえ、名前が変わっても生きづらさは変わりませんので、まずは概略をしっかりと押さえていきましょう。
発達障害の概略(位置づけ)
続いては、発達障害の理解に当たって、位置づけを考えてみたいと思います。
私個人の理解としては、以下の大きな3つの分類が理解しやすいかなぁと思っております。
ちょっと乱暴ですが、上記のような理解の方が位置づけしやすいです。
知的なところは、文字通り知的な発達に障害が起きているところです。
知的発達はIQで検査することができます。
(ちなみに、アインシュタインはIQ=150位、統計的に人口の約7割がIQ=80~120の間に位置します)
70~80が境界
50~70が軽度知的障害
50を切ってくると中度知的障害や重度知的障害となってきます。
ただ、軽度知的障害と言っても、IQ=50に近い方と、IQ=70に近い方では大分違いがありますので、今後の施策の課題とも言えます。
自閉のところは、自閉症やそれに係る領域です。
文字通り自閉症、かつてはアスペルガー、高機能系と言われるのもここに分類されてもいいと思います。
なお、アスペルガーとは「知的障害を伴わない自閉症的特徴」のことです。
中核的な自閉症とは、2次的に知的障害を併発しやすい(学習にのらなかったり、機会が少なかったり)ため、多くは知的障害も合併することが多いです。
また、LD(学習障害)などの特徴に近い場合、能力のバラつきが非常に大きいのもこの領域です。
例えば数学はものすごくできるが、国語は一切できない、といったような感じです。
その他は、それ以外です。
学習障害、ADHD、HSC(Highly Sensitive Child:敏感な子)、ダウン症なども入れていいかもしれません。
学習障害は、ある特定のことだけはどうしても勉強上できないことです。
有名な人では、トム・クルーズ(ミッション・インポッシブルの主役の方です)は読字障害であることを告白しています。
映画劇中やインタビューを見ていると、トム・クルーズは知的に障害があるとは思えません。
ただ、字を字として認識できないのです。
ADHDは随分有名になりましたが、注意力が一つどころに集中することができず、いろんなところにつぎつぎ移って行ってしまい、また落ち着けないことで常に動いているというものです。
小学校などで発見されることが多く、授業中に座っていられないというわかりやすい形で発見されることが多いです。
あまりに座っていられないと、結果的に学習の機会を取りこぼしてしまい、相対的に知的発達が遅れてくることもあります。
このように、純粋な発達障害としての疾患はもとより、オーバーラップしてくるところもあり、2次的に知的な影響があったり、いじめの対象などにより自尊心の低下や、うつ、不登校などとも関係してくることが往々にしてよくあります。
自閉症スペクトラム障害
オーバーラップしてくることがあることから、最新のDSM5では、自閉症スペクトラム障害という概念を採用しています。
スペクトラム(らせん状)として疾患をとらえようという試みです。
包括的に発達障害をとらえるには大変良い試みと私は考えています。
一方で、「自閉症スペクトラム障害」という名前ではどのような状態像なのか一言でわかりにくくなってしまい、過剰診断の元ではないか?という声もあります。
ひょっとしたらDSM6あたりでまた変わるかもしれませんね(笑)
発達障害の治療
まずはしっかりとした精査です。
先に挙げた通り、発達障害というのは非常に多くの分野を含む単語です。
本来、その一つ一つに多くの専門書がある位の領域です。
そのため、本人の状態・能力をしっかりと把握する必要があります。
診断を付けられるのは医師のみですが、その実態として診察のみで「発達障害」としてしまうにはあまりに乱暴とも言えます。
知能検査、言語検査、運動検査など、バランスよく行い、過不足なく現状を数値として理解することが有効です。
そこから何回かの面接を通じて、自分の実際生活から得意不得意をしっかりアセスメントし、会社・学校の生活上でのうまく行かなさを一つ一つ解決や改善を探していきます。
道具(スマートフォンなど)を使うのも良いですし、周囲の理解を求めることも有効です。
また、逆に得意なものはどんどん行かしていくことも重要です。
結果的に自分で自分の「取り扱い」が分かってくることによって、十分に能力を発揮することができてきます。
場合によっては、医師による薬物療法も有効です。
ADHDに関しては、コンサータやストラテラと呼ばれる薬がここ数年登場しており、服薬によって改善が認められます。
発達障害は二次的に(社会でのうまくいかなさ)「うつ」などを引き起こすこともあります。
その点に関してもしっかりとした治療を進めていくことによって改善することができます。
さらに予防的にアプローチを続けていくことも有効です。
発達障害そのものは「治る」というよりも、ベースアップやスキルをみにつけつつ、うまく折り合いをつけて活かしていくものと捉えた方が適切です。
完全にセッションを終えるよりも、頻度を落としてでも経過を見て行った方が二次的なうつなどの予防にもなります。
発達障害の周囲の受け止め
「発達障害を受け入れていきましょう」という風潮は歓迎されるものと捉えています。
一方で、その言葉だけが先行しているようにも感じているところもあります。
当オフィスにはいわゆる「上司」にあたる方が「部下」がどうにも言うことを聞いてくれず、困っている、という相談もあります。
場合によってはそれによって上司の方が「うつ状態」にあるような場合もあります。
何度指導してもなかなか改善が見られず、本当に困っている、といった場合もあります。
よくよく話を聞いていくと、「部下」にあたる方が発達障害なのでは…?と思うことが多々あります。
もしそれが真だとすれば(医師の診断がないので何ともですが)、発達障害に対して本人も周囲も理解が足りなかった故に、上司に負担がきてしまっているケースとみることもできます。
この場合、本当に解決をしていくためには、「部下」へのアプローチとともに、「上司」へのコンサルテーション(どのように接していけばいいか)をしていくことも必要不可欠です。
それによって、「上司」も「部下」も健康的に力を発揮していくことが可能になります。
「受け止めて」「社会の中で」といった流れはこれからも加速していくと思われます。
一方で、「受け止めて」いくためには「社会の中で」共通認識としてリテラシーを高めていかなくてはならないと感じています。
今のところ、教育プロセスにはこういったものは必修となっていません。
学校的な「知識」だけでなく、平等な社会を作っていくためには広くリテラシーを高めていく必要があるのではないでしょうか?
当オフィスでは、発達障害に対する理解を、本人はもちろん、周囲の方へのコンサルテーションとしてもご提供しております。
風邪などと違い、ひとりでに改善していくものではありません。
知識と、経験と、フットワークが必要です。
当事者でも、周りの方でも、是非お心当たりの方は一度ご相談ください。
お問い合わせ、ご予約はコチラからどうぞ。