健康経営という名の不健康さ
働き方改革が2016年よりホットなキーワードになっていますが、その中で「なんか違う気がする…」と思うことがいくつかあり、記事にしてみました。
まずは、「健康経営」という単語に馴染みのない方もいらっしゃると思いますので、そちらの定義からご紹介いたします。
(といっても、引用元の通りですが…2017年2月13日現在)
特定非営利活動法人 健康経営研究会様 より
健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる」との基盤になって、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することを意味しています。従業員の健康管理・健康づくりの推進は、単に医療費という経費の節減のみならず、生産性の向上、従業員の創造性の向上、企業イメージの向上等の効果が得られ、かつ、企業におけるリスクマネジメントとしても重要です。従業員の健康管理者は経営者であり、その指導力の元、健康管理を組織戦略に則って展開することがこれからの企業経営にとってますます重要になっていくものと考えられます。
wikipedia より
従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題としてとらえ、その実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営手法のこと。その始まりは、アメリカにおいて1992年に出版された「The Healthy Company」の著者で、経営学と心理学の専門家、ロバート・H・ローゼンが提唱したことによるとされている。
ちょっと難しく書いていますが、ともあれ企業が従業員に対して健康であることに投資を行う、それによってメリットが多くあるといったところでしょうか?
しかし、現在報道されているものや、個人的なFacebookでの様子を見ていると、現場の人間は違う見方をしているようです。
いくつか見たものや個人的に話を聞いたものなどをご紹介いたします(本当にテレビの特集レベルですので、引用もとあいまいです)
社員の働き方改革のためにプレミアムフライデー(最終金曜は15:00退社)をしている従業員の一言
40代位の男性 「まぁ、来週月曜の残業が増えるだけですよね」
育児のために時短勤務をしている女性の一言
30代位の女性 「前より時間短く、でも仕事きっちりやっているのに何で基本給減るのかわかりません」
健康経営の自治体認定を取ろうとしている企業にお勤めの方の一言
30代位の男性 「突然『ウォーキングのお誘い』という回覧が来た。月休2日なのに、いつ行けばいいの?健康優良会社を目指すうちの会社に聞いてみたい」
こんな状況では健康どころか、不健康一直線です。
なにやら、私には、健康経営と発信をされている方の理解と、実践されようとしている経営者の理解と、実際の現場の人たちの理解と体感は全く一致していないように見受けられるのです。
もちろん、全部とは言いません。
あくまで、個人が感じている問題提起としてお読みください。
「健康経営」という誤解
①健康診断編
企業が行う従業員への「健康」と考えると、健康診断が思いつくかと思います。
事業主は安全衛生法に基づき、従業員(常時雇用している者)への健康診断の義務が発生するのです。(50人以上の会社は)
ここでは健康診断の内容はさておき、その歴史をちょっとだけ振り返ってみます。
もともと日本の健康診断は、製造業の現場を起源としているところもあります。
例えば、記憶に新しいところではアスベストの問題があったかと思います。
人体に影響を及ぼす可能性が大きい職場では、従業員が病になって倒れてしまうリスクが高まります。
すると、従業員がどんどん倒れてしまうと事業主は事業を行えなくなってしまうわけです。
そのため、年に一度は健康状態を確認してみましょう=定期健康診断ということが出てくるわけです。
これがざっくりとした(本当にざっくりですが)健康診断の歴史の一部になります。
ですが、ここから先はちょっと話が変わります。
(なお、健康診断を全くやらない会社は、それ以前の問題ではあります)
健康診断は法律に定められている項目と、追加の項目があります。
逆に言いますと、追加の項目の健康診断にどれくらいお金をかけられるかは企業によりけり、ということです。
さらに言うと、健康診断結果は労働基準監督署に届け出るわけですが、人数の記載等がほとんどで、事後のフォローアップをどれくらいちゃんとやるかも企業によりけり、ということです。
ここで、最近の誤解が一つ生じているような気がします。
健康診断をしっかりやること=健康経営ではありません。
どうもここを誤解されている方が何名か見受けられます。
某産業保健を生業としている会社は、健康経営ということで健康診断のフォローアップを重点的に行う、ということを打ち出しているようです。
これは、残念ながら健康診断に詳しくはあっても、本当に意味で健康経営がわかっていないと言っているようなものです。
産業保健の会社としては、なんだかなぁと個人的には思ってしまいます。
②時間外労働編
先日、某会社社長とお話ししている際、こんな話がありました。
「やっぱり今は働くということが変わってきてるよねぇ。
某広告代理店なんかはまたやっちゃっていたみたいだし。
うちは残業代ちゃんと出してるから大丈夫だよ。
結構高くつくんだけどねぇ。
月140時間とか、本当はやめてほしいんだけどさ。
どうしても、仕方ないよねぇ。
これも健康経営っていうのかな?」
きっぱりと違います。
言葉を聞いたときに、率直に驚いてしまいました。
残業や休日出勤時間が月140時間もしてもらうなら、最初からもう一人パートさんを雇った方がそもそも人件費安いです。
140時間も時間外やっているなら、効率悪くて仕方ありません。
時間の給与をちゃんと出すこと=健康経営ではありません。
③財務編
とある、一般社員の方から聞いた発言です。
「健康経営って、会社が黒字のことでしょ?」
私も実は一番最初そう思ってましたが…(笑)
財務状態が健康(黒字)であること=健康経営ではありません。
いや、黒字であることは企業にとって確かにいいことであり、社員にとっても賞与を期待はできるのですが…
たしかに、どれも「健康経営」という単語から連想されそうなものではあります。
ですが、「健康経営」という本当の意味ではありません。
どれもやって頂けると、確かに社員にとっては喜ばしい限りではありますがね。
「健康経営」=事業の継続性である
日本における健康経営の草分け的存在である岡田邦夫先生によると、健康経営の目的は「従業員の健康に投資をして、事業の継続性を実現すること」とおっしゃっております。
まさにその言葉の通りかと思います。
従業員が病気にならないように配慮し、健康診断し
基本的には定時に
コミュニケーションよく
運動などにも気を使い
給与もしっかりしており
身体もメンタルヘルスも良く、アクティブに長く働ける職場作り
これらはどれか一つだけでも健康経営にはなりえません。
これらをすべて行うから健康経営になるわけです。
会社の生産性も上がり、優秀な人材が長く勤めてくれることにより、さらに効率的・効果的な働き方が実現されていきます。
まさに事業の継続、健康経営です。
逆を考えると、なんだかブラック企業にそっくりです。
残業ありきの消耗戦
もくもくと
運動などできず
残業があっての給与体系で(むしろ残業代未払いかも)
疲労の塊の体でうつになったら使い捨て
これでは事業の継続性なんてあったものではありません。
そういう会社に限って「あなたの代わりはいるから」的な人材の使い方です。
私はアメリカに住んだことはありませんが、アメリカは残業をよしとしない文化らしいというのはメディアを通じて知っています。
(実際はわかりませんが)
残業をするのは、能力がない証だ、それ位の文化がありそうです。
会社としては業務が終わればいいわけですし、その仕事に対して給与を払うわけですので、本来仕事というのは時間規定ではないはずです。
夢みたいな話かもしれませんが、日本全国が…
会社は業務が終われば帰ってもOK
ハラスメント等なく
コミュニケーションも良くとれる、充実した仕事で、
残業代込みの十分な基本給で給料変わらず、
家族や恋人、友人、趣味、自分への投資の時間が増える、そんな働き方。
これが本来の働き方改革のはずですよね。
(私は自営業ですが、基本的にはこんな感じの働き方です)
「いや、そうは言ってもねぇ…」という現場の声が上がってくるかもしれませんが、そこを変えていくのが経営者の本当の健康経営への着手と言えます。
「健康経営」「働き方改革」「ワークライフバランス」という、単語だけが何か先行してしまって、相変わらず耐えることが美徳の日本になっているのではないか?という個人的な警鐘を鳴らして、本コラムを終えたいと思います。
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